>>> そうだったらいいのにな

「"ExMoonLand"通行証?」
  "DarkRoom"の一角。
  導き手の少女は背の低い椅子に腰掛け、店内を眺めながらブラウと世間話に興じていた。
  少しずつ手に入っていく戦士達の失われた記憶。新しく入った戦士の感想。または誰と誰が仲良しで、誰と誰は喧嘩ばかり。等。
  そんな時ブラウから「そう言えば、」と手渡されたチラシに記されていたのは、見慣れた、けれど初めて見る名前だった。
  "MoonLand"は、現在探索を進めている"夜歩く影の道"がある大陸。
  おぞましい形状の呪剣、大きな蜘蛛、彼女から見たらアベル2人分くらいの背丈がありそうな山羊等。
  更には影の大陸からわざわざ会いに来たのか、影斬り森の夢魔までいる。
  "夜歩く影の道"の探索はだいぶ進んだものの、同時進行で"ShadowLand"の"幽霊騎士の首塚"にてモンスターを狩っているので、その歩みはとても「ゆっくり」だ。
「"Ex"が付いていると言う事は、"ExShadowLand"と同じ様な場所なのかしら?」
  渡してきたブラウを見上げると、いつもと変わらぬ笑みを浮かべて、彼(多分、男性)はコクリ、と頷いた。
「ええ、そうです。"MoonLand"に現れる全モンスターのカード、各種コイン、通常では手に入らないアイテム等。
それらが眠る、もう1つの"MoonLand"へ行く事が出来る通行証です」
  ただし月光姫は除外されておりますが、と付け足された。
  名前なら知っている。
  他の導き手からその情報を聞いた事はあるが、一言で表すなら「チート」。
  月大陸の頂点に相応しい、と言うよりも、相応し過ぎて涙が出るレベルの凶悪さを持った王者らしい。
  仲間であれば頼もしいが、そんな存在とデュエル会場で出会ったら物凄い事になる気がする。色々な事が色々と。
「それもそうね……。あら、"ExShadowLand"通行証と比べると少し高いのね」
「えぇ」
「でも、妥当な値段だと思うわ。全てのモンスターと出会えるんだもの。楽しそう」
「そう言って頂けると助かります。……あぁ。どの様な場所か、ですが、他の導き手様達が集めた情報がこちらに随時追加されますので、」
  こちらをご覧になってから試されるのも良いかと。
  そう言って差し出されたファイルを覗き込めば、既に探索の手が入ったのであろう。幾つかのクエスト名と、そこに現れるモンスターや戦士の欠片が書き込まれていた。
  Lv1のモンスターが蔓延る地、蜘蛛が列を成しているであろう地。
  その情報を、上から下へと見ていく……と、ある場所で目が留まる。
  ブラウはそれに気付いたらしい。お嬢の視線を辿り、あぁ、と声を漏らす。
「私も驚きました。……と言っても、聖女様からは何も伺っておりません故、確証はございませんが……」
「…………私もよ」
  "畏怖の双子"と記されたその地名。
  そこに綴られていた説明文に、心を奪われる。

"かつて畏怖の対象であったというレジメントの双子剣士"
"最後の戦場にいるのは、……

「本人達に訊いてみるわ!」
「えっ」
  全ての記憶がある訳ではないのに、どうやって確認なさるおつもりですか?
  そう訊こうとしたが、導き手の少女は風の様に去った後。
  お元気ですね、と感心しつつ、彼女が置いていったチラシを手に取った。
「……まさか、あのお二人が……?」

"最後の戦場にいるのは、ベルンハルトとフリードリヒの2人"

  そして場所は邸へと移る。
  "DarkRoom"から邸へと戻ったお嬢は、目当ての人物がいそうな広間へと走った。
  予想は当たっており、目当ての人物その1・ベルンハルトは黙々と読書をしていた。
  もう1人、フリードリヒはベルンハルトの隣で、遊んでくれ手合わせしようぜ鬼ごっこでもイイんだぜと駄々をこね、完全スルーされ全力で拗ねている。
  その2人以外にもコーヒーを飲んでいるアーチボルト、チェスをしているブレイズとマルグリッドがいたが、お嬢の頭の中は、先程得た未確認情報の事でいっぱいだ。
  だから周りを気にせず、その後起こりそうな事を気にせず、正直に疑問をぶつけたのである。ストレートに。
「ねぇベルンハルト、フリードリヒ! 貴方達って双子なの?」

  ピタ。と時間が止まった気がする。

  一瞬の後、ベルンハルトは1回だけお嬢に視線を向け、そして本へ戻した。
  目が、静かに文字を追い始める。
  彼の隣に陣取り、ベルンハルトの袖をグイグイ引っ張ったり肩に手をやったりしてはスルーされブーブー言っていたフリードリヒは、口を尖らせたまま硬直していた。
  だがお嬢は気にする事なく、ベルンハルトとフリードリヒを交互に見ては、そうなの?それとも違うのかしら?と訊いている。
  普段淑やかで大人っぽいお嬢がやる、幼い少女そのものと言った振る舞いと、彼女が発した言葉の意味。

"貴方達って双子なの?"

  ふ  た  ご  だ  と  。

  その場にいた他の戦士、アーチボルト、ブレイズ、マルグリッドの3人は、当然興味を持つ。
「オイ何だそりゃ? 双子だって?」
「興味深いわね」
「あの2人が……? 似て……ないと思うが」
  お嬢+戦士3名にジロジロと見比べられるが、ベルンハルトは先程と同じように1回だけ周りを見、また本へと戻した。
  その間、表情らしい表情は一切無い。
「赤の他人だろう」
  その発言で硬直していたフリードリヒが完全復活する。
「ひどっ! 他人って言い方無いだろベルンハルト!?」
「……。」
「思い出せ! 生前の、そして死後になっても変わらない、俺達の熱いコンビネーション……!! 俺もあんま覚えてない部分あるけど!!」
「………。」
「おい完全無視されてるぞ、お前さん」
「…くっ! ……いいもん! 冷たくされてもフーさんくじけないもん!! きっと生前も素敵コンビネーションだったもん!!!」
  右手をグーにしてソファをバシバシするフリードリヒ。
「大の大人が"もん"とか使うなよ……」
「あら、そう言うギャップって結構受けがいいものよ」
「人物に寄ると思うのだが……」
「えっギャップ萌えってマジで!? なぁベルンハルト、お前もそう言うギャップって好きなのか? どうなんだ?」
  ガバッと起き上がりベルンハルトへ尋ねるフリードリヒ。
「……………。」
「……また無視されているな」
  憐れみを感じる。
  今度はブレイズに言われ、フリードリヒの肩がガックリと落ちた。
  耳と尻尾があったら、見事に垂れ下がっていただろう。あと鼻をキュンキュン鳴らしていそうだ。
  そんな喜怒哀楽の激しいフリードリヒと、完全スルーが得意で寡黙なベルンハルト。
  この2人が、双子とは。
  アーチボルトはポリポリ頭を掻く。
  うーん、わからん。が、わからんままなのは、どうも落ち着かない。
  まだベルンハルトとフリードリヒを見比べているお嬢に近付き、しゃがんで目線を合わせる。
「な、お嬢ちゃん。何でまた急にそう思ったんだ? ベルンハルトじゃねぇが、おっさんも、ちょーっとばかし、この2人が双子って言われても信じられないんだが」
「それは……今日新しく出た"ExMoonLand"に、"畏怖の双子"と呼ばれる場所があるの」
「ふんふん?」
「そこの最深部には"かつて畏怖の対象であったというレジメントの双子剣士"がいるんですって。それが……」
「……私達2人だと言うのか」
  ベルンハルトが口を開く。いつの間にか本を閉じ、鋭い目をお嬢へ向けていた。
「えぇ」
「そうか。………だが、そう言った記憶は無い」
「そう……」
「それに、こいつと血縁関係があると言われても断る」
「えっ、そんな!!」
「冷たいわね、貴方。血縁者かもしれないのよ?」
  ちょっとは優しくしてあげたら?とマルグリッドが笑うが、それは彼女の本心ではないのはその場にいた全員が理解していた。
  優しくした結果起きる事。フリードリヒが取る行動を楽しみにしているだけなのだ。
  そして彼女のそう言った考えを、全く気にせず叩き折るのがベルンハルトである。
  彼にとって関心がある人物以外は、
「そんなものに興味はない。エヴァリストなら大歓迎だが」
  そう、どうでも良い。
  四六時中『機知』を活用しエヴァリストを追いかけ回し、嫌がる様子を見て楽しんでいるベルンハルトにとって、エヴァリスト以外はどうでも良かった。
  そして"そんなもの"扱いされた、もしかしたら双子の兄弟かもしれないフリードリヒは、
「うっうっ……ベルンハルトが鬼の様に冷たい……! 俺より細身の真面目眼鏡君がイイだなんて! いやわかるけどな」
  俺だってエヴァリストが弟だったら燃える。色々な意味で。と真顔で呟いた。
「おいおい」
「ぐすん。ブレイズ君、傷心の俺を慰め……あだっ!!」
「断る!! この煩悩まみれが、触るな!!」
  ブレイズにボディタッチしようとして強烈なビンタをお見舞いされていた。
  無表情だったベルンハルトの顔に、僅かだが呆れの色が生じる。
「……あいつが私の弟かもしれない、だと? 迷惑だ」
「それもそうねぇ。似ている所って言ったら……髪の色ぐらいだし」
「俺に冷た過ぎやしませんか! ねぇ!?」
  俺のサンクチュアリはどこに!と泣き真似をし始めた。
  そんな彼をスルーしているベルンハルトとマルグリッド。
  ブレイズはお嬢を抱きかかえ距離を取っている。見てはいけないとかどうとか言って。
  それを見ていたアーチボルトは、何か王子さんみてぇな行動してんなあ、と思ったが、それは心にしまっておく。
  多分真っ赤になって否定と乙女心的なアレコレが彼を襲うだろうから。
  あー俺ってば優しい。
「と言うか、本当に双子だとしたらやっぱお前さんのが兄貴か? ベルンハルト」
「私が弟だと思うか?」
「……思わん、なあ」
「外見で考えるとそうね、私も同意見だわ。彼の方が年下に見えるもの」
「そいつはどうかな!!!!!」
  いつ泣き真似を止めたのか。
  元気ハツラツと言った表情で仁王立ちのフリードリヒは、ぐっ!と自分を指さす。
「俺の方が兄貴かもしれないぞ。いや、寧ろそうだ絶対そう!!」
「……なあ、それ根拠あんのか?」
「無い!」
「では却下だ」
「私も同意見ね。ただの勘じゃデータが乏しくて駄目だわ。と言う事で反対多数、否決よ」
「何でだよー!! イイじゃねえか! どう見ても弟っぽい方が兄貴で、兄貴っぽい方が弟! これってアレだろ、ギャップ萌えって奴!!」
「………」
「ほら、俺の事"お兄ちゃん★"って呼んでもイイんだぜ?」

  キラッ

  星屑が飛びそうな爽やか笑顔を向けるが、ベルンハルトの視線は本へ注がれたままだ。
  だがそれで挫けるフリードリヒではなく、明るい笑顔のまま、バッ!と両腕を広げる。

  訳。カムヒア。

「ベルンハルト、フリードリヒお兄ちゃんだぞ!!」
「………………………解放剣」

「違うの? 双子ではないの? 私、そうだったらいいのに……って、物凄く思うのだけど」

  ねえ、違うの?
  ぶっ倒れたフリードリヒの耳に、とてもとても残念そうな、お嬢の声だけが響いた。

−その後−

エヴァリスト「あの2人が、双子の兄弟かもしれない……?」
グリュンワルド「と、姫が言っていたらしい。ブレイズから聞いた」
アイザック「えー、マジかよ。面倒臭ぇ大人2人が双子とか破壊力が」
グリュンワルド「で。どう思う」
アイザック「どう?って言われてもよ……俺達、あの2人に関する記憶はこれっぽっちも無いからな」
グリュンワルド「そう言えばそうだったな」
エヴァリスト「……………いや、本当かもしれない」
アイザック「え? 何で? どうしてそう思った?」
エヴァリスト「……あの2人は似ている」
グリュンワルド「ほう」
アイザック「どこが? どこが??」
エヴァリスト「2人とも変態だ」
アイザック&グリュンワルド「あぁ(ぽむ)」



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