毎年12月25日はクリスマス。
この時期になると自然と心が浮かれるものだが、ミプロス首都にある国立高校では、
焦りと緊張が入り交じった何ともフクザツ表情の少年達の姿が見られる。
辺りをキョロキョロと見回したり、急いだ様子で学校内を移動したり。
そんな少年達の間で、口々に交わされる言葉。
「なあ、お前パートナー出来たか?  俺まだなんだ…どーしよー!!」
「お、俺も」
「どうすんだよ…ダンパまで、あと一週間切ったぞ?」
少年達のポケットや手には、金糸の縁取りのある鮮やかな赤色のリボン。
それは、少年達にとって、非常に大事な物なのだが、今は焦りを与えていた。

逆に、勇気をもらっている少年もいた。
誰もいない廊下で、緊張と何かで顔を真っ赤にした少年が、一人の少女を目の前にして言う。
少女も、どこか緊張した眼差しで少年を見つめていた。
「あの……あの…ッ…………クリスマス・ダンスパーティーのパートナーになってほしんだけど!!」
震える手で、赤いリボンを差し出す。
少女が目を丸くし、やがて頷いた。

裁縫室では、家庭科の得意な女子達がドレスとタキシードを作っていた。
採寸を取ったり布を慣れた手つきで裁断したり。
それぞれが自分の役割に真剣に取り組んでいる中、ため息混じりにメジャーを伸ばしたりしまったりしている少女がいた。
すぐ隣では、友人がファイルをチェックしている。
「…ねえ」
「んー」
「誘われた?」
「んー」
「あたし、まだなのよねー…」
「んー」
訊いている少女が、長く息を吐いた。
メジャーの中心を押して、伸ばしていた所をシューッとしまう。
「あぁ〜………………………………………切ないッ…」
「…んー」
「…………………ちょっと、聞いてるの?  さっきから『んー』ばっかじゃない」
「んー」

ダンパとは、毎年クリスマスの日に、この高校で行われるクリスマス・ダンスパーティーを略した言葉。
男子は黒のタキシード、女子は白いドレスを着て踊るダンスパーティーである。
そのダンパで少年達が一喜一憂する理由は、ダンパでは、男子が女子にパートナーを申し込むと言う決まりがあるからだった。

それも25日まで。

申し込む時に、あの赤いリボンを差し出す。
OKなら受け取ってもらえるが、NOなら受け取ってもらえない。
パートナーが見つかるまでそれは続く。
だから少年達は必死になってパートナーを探すのだ。
が、焦っているのは少女達も同じだった。
「誰にも誘ってもらえなかったら…」と言う不安を、時折見せる少女が何人もいる。
中には、憧れの先輩が他の女子生徒を誘ったと知り、泣き出す少女もいると言う話で。
そして、なぜ家庭科の得意な女子達がドレスとタキシードを作っているのかと言うと、
経済的理由等でドレス・タキシードを購入出来ない生徒でも、着られる為。
学校の資金で作られるので、生徒全員がドレスもしくはタキシードを着る事が出来る。
しかしその量は半端ではない。
その為、製作班はかなり前から製作に取りかかっていた。

++++

そんな中。
未だ好きな人から誘われていないのにケロリとしている少女が1人、ダンパの会場となるホールにいた。
ホールでは飾り付け担当の生徒達が力を合わせ、大きなもみの木や会場内に飾り付けをしている。
そんな時、不安定な脚立を使って木の上部に飾りを付けようとしていた少年が、バランスを崩し悲鳴が上がった。
下にいた少年達と教師が何とか受け止め、彼らにやんややんやと喝采が送られる。
何事かとそちらに気を取られた時に言われた言葉に、チョチョコリーナの手はピタリと止まった。
「じゃあ何、オカリナ、シグナルからまだ誘われていないの?」
チョチョコリーナは、作業の邪魔にならないようにと、肩にかかる赤茶色の髪をポニーテールにしている。
驚きで眼鏡の奥にある薄茶の目は丸くなっていた。
「うん、そう」
オカリナは、驚いているチョチョコリーナと比べて、随分アッサリとした返事をする。
ポカーンとしている彼女の手から飾りを取ったオカリナは、少し迷った後手頃な場所に付け、言葉を続けた。
「だって、向こうは委員で忙しくて会えないんだし。仕方ないじゃない?」
そう言うオカリナの言葉に、チョチョコリーナは少し怒った。
「シグナルってば、何でダンパ委員なんてやってるの。忙しくてパートナー探せないから、って人気ない委員じゃない」
「そうでもないけど?  同じ委員の人を誘うって言う人もいるし」
そう言ってまた飾りを付けた。

チョチョコリーナとオカリナ、どちらも高校1年生である。
そしてこの国の王族…つまり王女だ。
可愛らしい容姿をした2人を誘おうとする少年は多かったが、中には純粋な気持ち以外で声をかけてくる少年も何人かいた。
そんな少年達は皆、2人の「ごめんね(にっこり笑顔付)」に敗れ去った。
勿論、純粋な気持ちで声を掛けた少年もいたが、全員とパートナーになるワケにも行かない。
チョチョコリーナは何人目かの少年…同じクラスの少年と組んだ。
向こうは非常に緊張した様子で申し込んだが、彼が緊張する理由に気付かなかったチョチョコリーナは「よろしくね」で終わらせたとか。

チョチョコリーナはワインのように赤い玉を、苛つきながら枝にくくりつけた。
「…ねえ、シグナル呼び出したら?」
「何で?」
「シグナル、先輩達に人気あるから。
それに"ワタシ誰からも誘われないの"、なんて言われたら、うっかり誘っちゃうかもしれないでしょ」
まるで自分の事のように言うので、オカリナは悪いと思いながらも笑った。
「ないってソレ。シグナルは約束破らないもん」
そう言ったオカリナは嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
チョチョコリーナはワケがわからず首を傾げる。
「約束?」
「私以外の人は、絶対誘わないって。他の人と踊りたくないし、他の人と踊ってほしくないから、誘うまで待って…って言ってた」
土も凍るほどの冬なのに、春でも来たと言わんばかりに明るいオカリナの様子に、チョチョコリーナは息を吐く。
他に聞かれないように、小さな声で言う。
「あのね、確かにシグナルは約束破らないしオカリナ以外眼中にないけど…」
「うん?」
「……彼も男よ?」
オカリナの目がきょとんとなる。
「そりゃ可愛い顔してるけど…」
「そうじゃないわ。ほら、昔から『涙は女の武器だ』なんて言葉あるじゃない」
私はあれ嫌いだけど、とボソリと呟いて、続ける。
「ユニコーンって異性に優しいでしょ。ちょっと泣かれたら『じゃあ僕が』みたいな感じで誘っちゃいそうとか、不安じゃないの?」
チョチョコリーナの言葉に、オカリナはしばし考える。
その様子に、チョチョコリーナはじっと答を待った。
「大丈夫」
「え?」
どうして?と言うチョチョコリーナにオカリナは満面に笑みを浮かべた。
「シグナルが浮気なんてママに髭が生えるくらい有り得ないもん。だから大丈夫♪」
頬を染めてえへへと笑うイトコの姿に、思わず遠い目をするチョチョコリーナだった。



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