王女2人の話の中心になっていたシグナルは、正にチョチョコリーナの言っていた事に直面した。
作業場所となっている生徒会室で、各班の進行状況を、各班班長が持ってきた書類でチェックしていた時だ。
突然、自分の前にいた女の先輩がしくしくと泣きだした。
隣に座っていた友人がオロオロし、シグナルもオロオロする。
「ど、どうしたんですか先輩?」
「どうしたのよ、大丈夫ネリィ!?」
「……あっ、あたしなんて〜っ!!」
突然、大声で泣き出した。
驚いたシグナルは、ドアが開いたままだと言う事に気付き、慌ててドアを閉める。
泣いている所を見られたくないだろうと言う配慮からの行動だったが、それは泣いている彼女と慰めている彼女にとっては、心のガッツポーズに繋がった。

これで邪魔は入らないワ、と。

シグナルは制服をきちっと着ていて礼儀正しい所や、優しげな笑顔が上級生に人気だ。
が、本人はオカリナ以外興味ない為、そう言った事に全く気付かない。
その為か、目の前で先輩2人がやっている事が嘘だと気付いていなかった。
「…せ、先輩、どうしたんですか?」
シグナルの問いかけに、泣いていた少女…ネリィは涙を溜めた目でシグナルをじっと見つめる。
「もっ…もうすぐ、ダンパなのに…ッ…うぇっ…だっ、誰も誘ってくれないのよぅ!!」
ネリィの言葉に友人の少女が「えーっ、何ソレ!? ひっどーい!!」と憤慨する。
「ねえどう思う!? シグナル君!!」
「えっ」
突然話をふられて目が丸くなる。
するとネリィが更に激しく泣き出す。
それに狼狽えたシグナルは、どうしたものかと辺りを見た。
と、その目が時計をとらえた瞬間、シグナルの目が驚きで大きく開かれる。
「あーッ!!」
「「!?」」
突然の大声に、茶番を演じていた2人は演じるのも忘れてギョッとする。
「すいません先輩! 僕、ちょっと用事が…!」
「えっ!? シ、シグナル君!?」
「すぐ戻ります!!」
そう言うと少し散らかっていた書類を適当に片付け、生徒会室を飛び出していった。
シグナルの足音はあっと言う間に冷えた廊下に吸い込まれる。
残された2人は、呆然と開いたままのドアを見つめた。
「ねえ…どうなってんの…?」
それに答えられる者はいない。
わかっているのは、作戦は失敗に終わったと言う事である。

++++

シグナルは足を踏み外さないよう気を付けながら、階段を駆け下りる。
頭にはさっき見た時計の時刻が浮かんでいる。
確か10時15分だった、見間違いじゃない。
今の時間なら、会場セッティング班は休憩中の筈。

今なら行っても作業の邪魔にはならないから、オカリナに話しかけても大丈夫…!

今までは時間が合わなかったり帰りが遅くなったりで、会話をする機会もなかったが、やっと話が出来る。
駆け下りながら、胸ポケットに綺麗にしまったリボンを取り出した。

オカリナに、これを渡さないと。

一瞬、気持ちが目の前からそれた。
廊下に出て曲がった瞬間、シグナルは何かに激突した。
転びそうになるが、上手くバランスをとって体勢を立て直す。
その時リボンが落ちたが、突然の事に頭がいっぱいで、落とした事に気付かない。
と、自分が激突したものが何だったのか理解し、頭からオカリナを誘う事が吹っ飛んだ。
痛そうに腰をさすっている男子生徒。
襟にある青いラインで3年生だとわかった。
慌てて手を貸す。
「いってぇ…」
「すいません! 大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、うん。平気だよ」
笑顔で返されるが、シグナルは腰を悪くしていないかと、不安そうに見る。
それに気付いた少年が再び笑った。
「平気だよ。それより、何か急いでるんだろう?」
言われて思い出す。
「あっ! …で、でも…」
「いいから行きなよ。ぼくは平気」
「あ、じゃあ……。あの、すいませんでした」
悪いと思いながらも深く頭を下げると、厚意に甘え、ホールに向かって走り出す。
足の速いシグナルだ。
あっと言う間に廊下の向こうに消えてしまった。
ぶつかった少年は、ただニコニコしてシグナルが消えた廊下をじっと見つめている。
だが、ふいにしゃがんで、シグナルが落としたリボンを拾って、ニィ、と笑った。
それだけで廊下の空気が淀んだものに変わる。
「ユニコーンか……はは、イイもんみっけ」
そう言った少年の両目が淀んだ金色に、髪から覗く耳は先が尖ったものに変わる。
金の目と尖った耳は魔族の証。
誰にも縛られず、ただ魔王のみに従う存在。

だが、少年は"魔族ではない"。

本来輝いているはずの金の目は濁り、堕ちている。

それは禁忌を犯した元魔族、魔物の証拠だった。



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