>>> ○○の心、○○知らず

「アイザック!いるか、アイザック!!」

  エヴァだ。戻ってきた。
  名前を呼ばれた犬さながらに、寝転がっていたソファから飛び起きる。
「いるっての!それと聞こえてる!」

『今日は、エヴァと2人で探索に行ってくるわ』

  そう言われてアイザックとグリュンワルドは「2人で? 危なくないか?」と言ったが、
  お嬢に「大丈夫。モンスターの気配は無かったから」と告げられ、留守番する事になった。
  彼女がモンスターの気配を感じない、と言うのなら間違いなく、いないのだろう。
  つまり、安全だと言う事。
  それを理解していても、自分は一緒に行きたそうな顔をしていたんだろう。
  こちらをチラ、と見たエヴァリストが
「こいつがウロウロし始めたら、軽く殴って落ち着かせてくれ」
  と言った。グリュンワルドに向けて。

  思い出したらちょっとムカッとしたが、それよりも今は無事を確認したい。
  お嬢の言った事を信じていないワケではないけれど、この世界でのエヴァリストはどうも危なっかしくてしょうがない。
  嘘ルールとか嘘ルールとか嘘ルールとか嘘ルールとか嘘ルー……、…………、……もういいや。
  そして理由はもう1つある。帰ってきてすぐ、大声で自分を呼んだ。
  今までこんな事あったか? いや無ぇよな。
  じゃあ、何で。もしかして、まさか、何かあったのか。
  声に張りはあった。
  疲れているとかそう言うものは感じなかった。
  けれど無事な姿を確認しない事には安心出来ず、大股で歩いていたのが早足、そして駆け足になる。
  玄関ホールに到着すると2人の姿が見えた。
  自分より先に来ていたらしいグリュンワルドが、お嬢を抱きかかえ、お疲れ様と笑んでいる。
  その側にはエヴァリスト。
  無事だ。良かった。
  ホッとしたのも束の間、
「うおっ!?」
  エヴァリストは、見覚えのある人物を背負っていた。
  オレンジ色の長い癖っ毛と、露わになっている、鍛えられた体もとい上半身。
「……あ、アベル…?え、何で?」
「知り合いか」
  グリュンワルドの問いに、お嬢が「前に戦った事があるの」と答える。
  アイザックの問いにはエヴァリストが答えた。
「箱の中に」
  短い返答に、ああ、と納得する。箱の中で、眠っていたのか。
「てー、事は」
「新たな仲間だ」
  あぁ、嬉しそうだコイツ。ちょっと笑った。
  嘘ルールのせいでアベルに眼鏡を渡しかけたのが切欠で、"縁"が出来たのか……その時のアベルと々アベルに何回か出会った。
  戦う事が好きらしいアベルはその度に自分達と戦い、そして「ちゃんと眼鏡を掛けてるな」とエヴァリストに言う。
  言われたエヴァリストは「もう忘れてくれ」と、小さな笑みを浮かべて返していた。
  そのやり取りに、何となく。つまらないと言うか何と言うか、そう言う感じの物を。覚えた気が、する。
  今みたいに。
「……そっか。アベルが仲間に、か……」
「ああ。と言う事だ、彼を運ぶのを手伝えアイザック」
「言われなくても」
  まぁ、嬉しそうだし。いいか。別に。なぁ。

「子離れの時期が来た様だな。それとも、飼い主を取られそうで寂しいか?」
「心ん中勝手に読むな!!!」
「何の話だ。いいから運べアイザック」




エヴァがアイザックを呼んだ理由は、「お母さんあのね今日ね学校でね」的な、いち早く報告したかったから。
しかし呼んだ当人は無自覚。

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