>>> 王子参入
目が覚めると、少女と黒髪眼鏡と金髪眼帯がこちらを見下ろしていた。
「………。」
どこだここは。
あの世だろうか。
だが、あの世ならば随分と現実的な場所だった。
ごく普通の調度品、ごく普通の天井……聖職者が描くような、光に満ちた場所ではない。
そして自分を見下ろしている者達は一体何者だ。
黒髪眼鏡と、金髪眼帯。そして、碧色の長い髪と金色の瞳を持った少女。
どうしたものかと思いつつ、自分を見下ろしている3人組を無言で見ていると、金髪眼帯が口を開いた。
「よぅ、気分は?」
「……悪くない」
「良かった。お水、いるかしら?」
毒は入っていないわ、と続けた少女は、見た目に反し、随分と大人びた印象を受けた。
もう1つ、どこか無機質な物も感じるが……それはよく解らなかったので考える事を止める。
「……貰おう」
死んだ身だ。
ここで毒入りの物を飲んだとて、影響はあるまい。
受け取り、一口飲み……何ともない事に小さく安堵した自分がいたが、そこは無視をする。
「俺はアイザック。そっちの眼鏡はエヴァリストで、そこのお嬢ちゃんは"お嬢"だ」
「……グリュンワルドだ」
「よろしく頼む」
「よろしくね、グリュンワルド」
眼鏡もといエヴァリストは考えの読めない表情でこちらをじっと見、
少女もといお嬢はどこか嬉しそうな様子で言って手を差し出してきたので、それを握り返す。
とりあえず敵では無さそうだ。
……というか、この3人はどう言う関係だ?
大人2人と幼い少女。
エヴァリストとアイザックは、似た軍服を着ている所からして同組織に属する軍人の様だが、
少女の方は2人と血縁関係がある様には見えない上、無いなら無いで、どう言った関係なのか判断出来なかった。
グリュンワルドがハテナマークを浮かべている間、3人は向かいにあるソファーに腰掛ける。
アイザックがパン、と両手を合わせた。
「さーて。色々気になる事あるだろうし、説明アンド質問タイムと行こうぜ」
「そうだな。ではこれを見てくれ」
頷いた眼鏡が、とん、とテーブルに置いた物に脱力しそうになった。
「……なぜ、紙芝居を」
「説明するには最適だとお嬢が」
「言葉だけでは解り辛い所があるんじゃないかと思って……改良に改良を重ねた力作よ」
「……そうか」
だが、なぜ紙芝居。他の物があるのでは。
そう思ったが、言葉にせず表情にも出さず、紙芝居が始まるのを待つ。
今は状況を把握すべき。そう判断したからだ。
「よーしそれじゃあ始めるぞー。ある所に炎の聖女様がおりまして…」
「待てアイザック。逆さまだ」
「うっわ、マジかよ! エヴァみてぇな事しちまった」
「オイ」
「いって……! 今本気でやったろ?本気だったろ?」
「何の話だ」
「ふふ。2人ともじゃれ合うのは後にしてちょうだい。グリュンワルドにこの世界の事を説明しなきゃ」
「……。」
ここがどう言う場所かはわからないが、彼らは自分を退屈させない存在のようだ。
そう思うグリュンワルドだった。
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